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認定看護師としての経験談

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認定看護師としての経験談

抗がん剤 認定看護師

Matsui Yuko

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公立小松大学 教授 松井優子

随分前のことですが、看護師として病院に勤務していた時に出会ったAさんとの忘れられないできごとがあります。

Aさんについては、「手術後に抗がん剤治療を受けることを勧めたが同意されなかった」と医師から聞いていました。看護師たちは、Aさんが主治医と話し合っての決断ならと思い、それ以上は尋ねなかったようでした。
私がAさんと出会ったのは、それから数か月後に外来に勤務異動になった時です。
外来診療の間の他愛のない会話の中で、ふとそのことを思い出し、「たしか手術の後に抗がん剤治療はしなかったんですよね。」と言いました。すると、Aさんは「ええ、私はそんな人生は送りたくないから。」とおっしゃいました。どういう意味なのかなと思い「そんな人生って?」と聞き返すと「だって抗がん剤治療をするとずっと入院したままになるでしょ。生きていたとしても、そんな人生に何の意味もないから。」とおっしゃいました。私はとても驚きました。なぜかというと、Aさんが勧められた治療は、外来通院で受ける治療だったからです。抗がん剤治療を受けないことはAさんが決めたことですが、それは正しい情報に基づく意思決定ではありませんでした。患者に伝えたことは正確に認識されているはずという医療者側の思い込みが招いた結果でした。ほんの少し立ち止まって時間を共有することの大切さを痛感したできごとでした。その後、この方は改めて意思決定し、外来での抗がん剤治療を開始しました。

この話は、今でも看護学科の学生に話し、1人1人の患者さんに向き合うことの大切さを伝えています。

Matsui Yuko

公立小松大学 教授 松井優子

公立小松大学 教授 松井優子

公立小松大学 保健医療学部 看護学科 基礎看護学 教授/2007年 日本看護協会 がん化学療法看護認定看護師を取得/2007年 日本褥瘡学会認定師(看護師)を取得/2011年 金沢大学大学院 博士後期課程修了 博士(保健学)取得/2018年より現職