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わたしが癌になった日

わたしが癌になった...

わたしが癌になった日

長藤由理花

『大きい病院かかったことある?念のため見てもらったほうがいいかも。』

通りがかっただけのクリニックでサクッとピルをもらって帰るだけのはずだった私は、
なんとなくもやっとしながら帰路についた。

健康診断は毎年婦人科オプションまでつけていて、一度も引っかかったこともなか った私は、
どうせなんてことないんだろうと思っていた。

それから数週間後、ただ安心するために
大学病院に足を運ぶと、あれよあれよといろんな検査に回された。
まるで様子がおかしかった。

半日かけた検査が終わったあと 個室に呼ばれた私はこう告げられる。

『残念ですが、卵巣がんの可能性が高いです』

見せられたがんの数値だという値は、
基準値のおよそ 30000 倍だった。

3 万?倍….?

まるで、ドラマのワンシーンで
手は震えているが
こういうときどうやら人は涙が流れないらしい。
私はただ冷静に、これから自分がどうなるのかを聞いたことを覚えている。

・ 早急に卵巣を摘出した方がいいこと
・ どれくらいのステージかはそれからじゃないと分からないこと

・ その後抗がん剤治療をしなくてはいけないこと

昨日まで普通の OL だった私には
到底理解も整理も追いつかなかったが、
それでも時間は待ってくれなかった。

帰り道の駅のホームで上司に電話をし、
まともな引き継ぎもできずに
突然の休職を許して頂き、
私はことを受け入れる間もなく摘出手術を迎えた。

手術が終わったあと
全身麻酔が解けた私に先生は
私がなにより1番に気にしていたことを
ひとこと伝えにきてくれた 。

『大丈夫、片方残しました』

その言葉に全身を震わせながら
私は声を出さずに泣いた 。