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言葉出ずして肩に手を

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言葉出ずして肩に手を

医師 がん患者 漢方 がん治療サポート外来

Motoo Yoshiharu

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金沢医科大学 名誉教授 元雄良治

 私が「がん治療サポート外来」で診ている男性患者さんは頭頚部がんの術後再発の状態でした。声帯が機能せず、言葉を出せないので毎回筆談です。病状が進行し、頚部の痛み、よだれが血性になること、顔面がむくむことなど、いろいろな悩みを聞きました。そして私は髪の毛から足の爪先まで、できる範囲を聴診器も駆使して診察しました。そして、病状に合う漢方処方をして、「炎症を抑え、むくみを取る処方をしましたよ。また次の診察でお会いしましょう。お大事に」と告げたところ、筆談なしに、思わず震えながら、左手で私の左肩に手を置いて、ただひたすら頷かれました。「ありがとう、ありがとう」と言われているのかと想像しました。看護師は「先生に会いたくて外来の予約をされていますよ。先生がこころの拠り所なのですよ」と言ってくれました。私は、本当にありがたく感じ、ただその手に自分の手を重ねました。もちろん頭頚部外科の主治医の先生も懸命に診て下さっています。私はサポート役ですが、少しでも患者さんの思いに寄り添いたいので、これまでに培った自分のすべてで対応しようと努めています。それは単なる医学的知識ではなく、人生経験も含めた全人格です。そのような診察をこれからも続けていきたいと願っています。

Motoo Yoshiharu

金沢医科大学 名誉教授 元雄良治

金沢医科大学 名誉教授 元雄良治

1980年東京医科歯科大学医学部卒業。1984年米国テキサス州ダラス・ワドレー分子医学研究所に2年間留学。金沢大学がん研究所腫瘍内科講師、准教授を経て、2005年金沢医科大学腫瘍内科学主任教授・集学的がん治療センター長に就任。最先端のがん治療においてチームリーダーとして活躍した。2021年金沢医科大学名誉教授、小松ソフィア病院腫瘍内科部長に就任。訪問診療にも従事し、患者・家族との対話を重視した「全人的がん医療」をめざして、地域での啓発活動にも尽力している。著書「全人的がん医療」、「まるごとわかる!がん」、「漢方でできるがんサポーティブケア」。