英語で『緩和』を意味する言葉は “palliative” ですが、その語源は “pallium” で、『マント・コート』という意味があります。中世の時代、病や怪我で傷ついた巡礼者を看病した施設が現在のホスピスの起源だそうですが、そこで病人を布で包み温かくケアしたことが『緩和ケア』という名の由来と言われています。私が慕う知人は、緩和ケアの研修会を開催するたびに、このことを説明するためどんなに暑い日でもマント(ケープ)を羽織って熱心に語っていました。
私の好きなモクレンは冬の間、産毛に覆われた毛布のようなつぼみの中で寒さを和らげ、春先にほころんでめいめいに白や紫の花を咲かせます。がんをわずらう患者さんでも、きちんと苦痛を和らげられたなら、その人らしさが表情や言葉にあふれ出てくることに似ていると感じます。がんによる苦痛を和らげるのに欠かせないのが『オピオイド』という薬で、今では医師なら誰でも安全かつ上手に使うことが出来るようになりました。
現代になっても、世界中には病や紛争、災害のため毛布に包まれる人がたくさんいます。緩和ケアの対象とする人はその中のわずかですが、今日もマントならぬ白衣を羽織って患者さんのところへ足を運びます。