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元雄良治 コラム一覧

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長崎の鐘

長崎の鐘

長崎の鐘

対話 医師 進行肝がん がん患者

Motoo Yoshiharu

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金沢医科大学 名誉教授 元雄良治

「長崎の鐘」という曲は昭和24年に藤山一郎が歌い、以後昭和の名曲になりました。妻に先立たれた男性の心境を歌った曲ですが、私には患者さんとの触れ合いの中でこの曲に思い出があります。私がまだ30代の頃ですが、その60代の男性患者さんは進行肝がんの治療で入退院を繰り返していました。奥様を50代で亡くされ、二人の娘さんは東京と福岡に在住で、その患者さんは金沢で10年ほど一人暮らしをされていました。あるときその患者さんに夕食に誘われました。患者さんから食事に誘われたのはこれが最初で最後でしたが、そのときにいろいろと人生の機微をお聞きしました。「男やもめはわびしいですね」などと苦笑いをされていました。ちょうどカラオケホールが貸し切り状態でしたので、その患者さんは「歌でも歌いましょうか」と自らマイクを握って、ステージに立たれました。そのときに歌われた歌が「長崎の鐘」でした。その声の調子を今でも覚えています。朗々としたその歌声は、私には魂の響きに聞こえました。私もこの歌が好きでしたので、思わず口ずさんでいました。その後、全身状態が悪化し、入院され、ついに最期のときに私の手を握り、「先生、本当にありがとうございました。私は先生と同じ時間を過ごすことができて嬉しかったです。一緒に歌いましたね」と言われました。ちょうど私の父と同じ年代でしたので、自分の息子のように思われたのでしょうか。私の父も歌が大好きで、いつもいろいろな歌を歌っていました。「歌は時代を越えて」とも言われますが、一曲にいろいろな思い出がありますね。

Motoo Yoshiharu

金沢医科大学 名誉教授 元雄良治

金沢医科大学 名誉教授 元雄良治

1980年東京医科歯科大学医学部卒業。1984年米国テキサス州ダラス・ワドレー分子医学研究所に2年間留学。金沢大学がん研究所腫瘍内科講師、准教授を経て、2005年金沢医科大学腫瘍内科学主任教授・集学的がん治療センター長に就任。最先端のがん治療においてチームリーダーとして活躍した。2021年金沢医科大学名誉教授、小松ソフィア病院腫瘍内科部長に就任。訪問診療にも従事し、患者・家族との対話を重視した「全人的がん医療」をめざして、地域での啓発活動にも尽力している。著書「全人的がん医療」、「まるごとわかる!がん」、「漢方でできるがんサポーティブケア」。